SKAのテクノロジー

イントロダクション

SKA (Square Kilometre Array、一平方キロメートル電波干渉計)で集光面積100万平方メートルを実現させるためには、従来の電波望遠鏡の設計を大きく変える必要があります。

SKAでは、特に情報通信技術の開発を推進するつもりです。この分野での新技術は、あちこちの分散したデータ源から、多量のデータを処理するようなシステムにも有益です。

SKAのエネルギー需要は、拡張性のある再生可能エネルギーの発電、供給、貯蔵、需要削減といった技術開発を加速させる機会にもなります。

SKAで中枢となる技術は、前身の望遠鏡や設計研究を用いて、世界中のSKAグループによって証明されています。これらによってSKA技術の重要性が決まり、また、多くの解決策が選定され最終的な機器に組み込まれます。

電波画像の高感度、高分解能の両方を実現させるために、SKAのアンテナ(電波受信機)を中心部に密集させ、さらに5本の渦巻き状の腕に沿って対数的に配置されます。

それぞれの腕にあるアンテナのグループは、中心部から離れた広範囲にまで広がっています。 SKAでは高周波・中周波パラボラアンテナ、低周波開口アレイの3種類アンテナが使用され、70MHzから10GHzの連続的な周波数範囲をカバーします。

すべてのアンテナからの信号を結合させると、面積1平方キロメートルに相当するアンテナを使って観測したのと同等のデータが得られます。

パラボラアンテナ

現在、直径15mのパラボラアンテナ約3000台を設置する予定です。アンテナはSKAの本質的な部分を形成するでしょう。

その膨大な数という点においても、目標とする高い感度という点においても、SKAアンテナ設計における挑戦は前例がありません。

SKAシステム設計において感度は重要な要素となりますが、宇宙を広範囲に渡って観測することも必要とされています。

大口径のアンテナは少数しかなくても高い感度を得ることができますが、口径が小さくても視野の広いアンテナをたくさん使えば、より早く観測を行うことができる見通しです。

このトレード・オフを考慮して、手ごろなコストで視野の広さと高い感度を得ることのできる直径15mのアンテナを採用することになりました。

アンテナ設計において特に重用視される項目を以下に並べました。

ダイナミックレンジの画像化

大量製造できる設計

アンテナ1台あたりの運用費をおさえること

労働力と設備を最小にし、設置に時間をかけないこと

材料供給の柔軟性

アンテナ1台あたりの最大感度



現存の電波望遠鏡設計では、これらの条件の組み合わせを満たすものはありません。

開口アレイアンテナ

SKAの鍵となる特色はその広い集光面積にあり、従来の電波望遠鏡の設計を開口アレイで補うことによって実現されます。

革新的で能率が良く、低コストの開口アレイアンテナを使えば、広視野を確保し一度により広い範囲の空を観測することができます。

開口アレイは低・中周波数で使用され、小さな電波受信機が地面にたくさん並べられます。

従来の電波望遠鏡では、電波信号がアンテナ表面で反射し、焦点で受信しますが、開口アレイでは電波信号が地面の受信機に最初にあたってそのまま受信されます。

受信された信号は、次に電子的に結合されます。 SKAでは低・中周波数向けに、2タイプの開口アレイを開発中です。

ソフトウェアとコンピューティング

SKAによって生み出される膨大なデータの処理には100ペタフロップス(1ペタフロップスは1秒間に1000兆回の浮動小数点演算が可能であることを意味する)以上の処理速度をもつ超高性能スーパーコンピュータが必要です。

これは2010年に最もパワーのあっとコンピュータの50倍の能力であり、普通のパソコン1億台分に相当します。

標準的な電波天文学のデータ処理は次のいくつかの基本的なステップから構成されます。

なんらかのシステム上の障害によって破損したデータを取り除く。

個々のアンテナの個体差や電波源までの視線上の変化を取り除き、それぞれのアンテナの信号を較正する。

データを "u-v平面" と呼ばれる直角グリッド上に配置し直す。

観測データを電波源の画像に変換するために、フーリエ変換と呼ばれる数学的計算を行う。

明るい星などを取り除く。

これらのステップが何千もの分割された周波数帯に対して、リアルタイムで行われなければなりません。 また、得られた観測データを蓄えておく巨大なデータストレージも必要となります。

最終的な結果は世界中の天文学者・物理学者によって共有される最終的な天文学的な画像データの基盤となります。

スーパーコンピュータは何百万もの演算を並列して行います。処理速度を上げるためには、ハードウェア面だけでなく、ソフトウェアの技術向上も重要です。

SKAのこれまでにない設計概念にアルゴリズムを適応させることや、以下ようなのソフトウェア開発が必要となります。

伝達信号とネットワーク

信号伝達とネットワークはSKA望遠鏡の背骨となるべき重要なものです。それらはシステムのほとんど全ての側面と連動します。

1秒間に約160ビガビットのデータがそれぞれのアンテナから中央処理装置に転送されます。これはここのアンテナが現在のインターネット・トラフィックの10倍のデータを生み出すことを意味します。

開口アレイレセプターを使用すると、データ生成率はさらに増え、毎秒数ペタビッツ(現在のインターネット・トラフィックの100倍)に達します。

物理的なネットワーク・インフラとしては、第一に光ファイバーケーブルを使用します。光ファイバーは人の髪の毛ほども細いシリカ製グラスでできています。

光はファイバーによって非常に長い距離を運ばれ、膨大なデータ量が非常に高い伝達率で中央演算施設へと転送されます。

大量のデータを高速に、かつ長距離を転送する光ファイバーの能力は、レセプターから相関器へ転送されるデータ量を増大させ、望遠鏡の感度を向上させます。

SKAは非常に広範囲に渡って配置された多数のアンテナで構成されるため、地球2周分(!)もの光ファイバーケーブルが必要となります。

信号伝達とネットワークはSKAを干渉計として運用する上で最も重要な要素である。これは、計時と時刻同期、モニタリングと制御、レセプターから相関器へのデータ転送、および世界中のユーザーに対するデータコネクティビティーを含みます。

信号処理

電波観測において、信号処理は欠かすことができません。空からやってきた電波信号を受信し、画像作成やビーム形成の準備段階で、科学的に必要なデータを得るための前処理として行われます。

前処理

それぞれのSKAアンテナからのデータは、アレイの中央部に位置する中央相関器に送られ、重ね合わせや同期作業が行われます。それからフィルターを使い邪魔な雑音信号と、必要な信号とに分離させます。

ビーム形成

ビーム形成とは、空の特定の領域から電波を観測するときに使われる、信号処理技術のことです。パラボラアンテナは観測したい領域へ機械的に向けることができますが、SKAで使われる開口アレイアンテナには可動部が無いので、特定の領域を観測するためにビームに電子的操作を加えます。

自動検出

SKAでは、パルサー(星の爆発後にできる、高速回転している星)からのパルス信号や突発現象を、自動的に検出するような信号処理を行います。予測不能で突発的に起こる天体現象には、超新星爆発、ガンマ線バースト、マイクロレンズ現象等があります。自動検出、時間周波数観測どちらも、高時間分解能データが必要となります。

アルゴリズム開発

SKAでは、信号処理アルゴリズム開発を、重要な2つの分野にまで発展させます。科学的に要求される、高ダイナミックレンジ(160:1)画像をより速く得るための技術を開発します。また、電波妨害(RFI)を効果的に軽減させるためのアルゴリズムも、広いセグメントの電波スペクトルを観測するために必要となってきます。

信号処理

SKAの信号処理には、そのスケールがあまりに大きいので、多くの処理過程と信号伝送のための条件がある一方、コストと熱散逸による制限もあります。現在、天文エンジニア団体が次の4つの処理技術を開発・試験しています。

汎用プロセッサ

グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)

フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)

特定用途向け集積回路(ASIC)

システムエンジニアリング

SKA電波望遠鏡は物理的に大きいだけでなく、複雑で数百万ものパーツから成っています。そのため、設計者はパーツをどのように使い、組み合わせるのかを知っていなければなりません。

ハードウェアやソフトウェアが目的に合致していて、金額に見合う価値を保証する事が、システムエンジニアリングの役割です。

SKA開発

SKA建設に取り組むと同時に、私たちはたくさんのSKAを‘組立て’ます。‘紙の上’のSKAでは、システムの動作を分析したり、低コストのものに変えたりすることができます。

このモデルは、性能評価等の様々な用途に使われており、維持管理には分析とコストが重要になります。何にコストがかかるのか、性能を譲歩しなければならなのかを調べるために、様々なモデルを使ってトレードオフ研究が行われています。

SKAは巨大で複雑なため、詳細な選択肢を考えなければなりません。というのも、何百万ものパーツそれぞれの、コストパフォーマンスの小さな違いが、システム全体の性質に大きな影響を与えてしまうからです。

SKAシステムエンジニアリングに、どのように取り組むか

まず、SKAの科学的な目的を考えます。これは、SKAが何をしなければならないのか、そしてどのように目的を遂行させるか考察する上でとても重要になります。このようなことを科学的必要条件と呼びます。

次に、SKAが実際に建設される、人間が操作する、現存しているもしくは計画されている技術を使う、法的枠組みの中にある、環境を尊重する、という事を考慮に入れます。

それから、最上級のシステムデザイン基本設計概念を提案し、他の選択肢を分析します。設計概念は分解され、様々な要素が同じ概略設計や解析過程をたどります。これは単純なパーツを作ったり得たりできるまで繰り返されます。

最後に、全ての設計ができると、これらを組み立てる作業が始まります。問題を見つけやすいように、組み立ての各段階では試験が行われます。この大規模なプロセスには数年かかりますが、素晴らしい機会を得ることができます。

金銭的に最高の性能を発揮させるために、このプロセスを何度も繰り返し実証します。